おっしょべ恋物語

その一

毎年8月の終わりに粟津温泉の開湯を祝って行われるおっしょべ祭り。この「おっしょべ」とは宿に奉公していた下女「お末」の名が訛ったもの。今から四百年ほど昔の少女、お末。粟津民謡「おっしょべ節」として歌われ、また、踊られているお末の恋物語のお話です。

その二

むかしむかし、今から四百年ばかり前のことです。粟津温泉の宿屋に「お末」と申す下女が奉公しておりました。年の頃は十六、七。瞳は黒く、頬はリンゴのように赤い愛くるしい顔立ちでありました。ある日のこと、お末は、向かいの宿屋に奉公している下男の竹松を見初めました。竹松は浅黒くりりしい面構え、いつも黙々と働いています。

その三

ある雨の降る宵、お末は切ない想いを胸に抱いて窓にもたれていると、竹松の横顔が夜空にぼうと浮かぶのです。彼女はたまらなくなって下へおりてゆきました。竹松のいる宿屋の玄関脇に大きな松の木があります。お末はその松の木によじ登り、竹松の部屋をめざして屋根の上を猫のようにはってゆきました。ところが木羽板を踏み外し、あっという間に軒下の草むらへ滑り落ちました。

その四

物音に驚いた人びとが集まってきてぼんぼりで照らしてみると、お末が倒れているのです。翌日、お末の冒険が粟津の湯の町中に広がりました。ことの次第を悟った竹松は、お末をカゴにのせて二里ほど離れた生まれ故郷まで連れてゆきました。あくる年、めでたく結婚した二人は奉公していた宿の人びとに挨拶にまわり、那谷寺の観音様へお参りしました。